2ntブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/96-e8c5cb7d

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

悪魔とトオル第二部 第六話

第一部第一話へ
第二部第一話へ
第二部第五話へ

 零時になりました。
――アヤ、今よ、縄を思いきり引きなさい!――
 縄が思いきり引かれました。トオルの首は、見えない縄に吊り上げられて、宙に浮きました。トオルの体は校舎の二階の窓の高さにありました。
「かっ!……は」
 トオルは何が起こったのかわかりませんでした。すごい勢いで、自分の首が締まっているのを感じました。自分の体が宙に浮いているのも感じました。首に何かが巻き付いているのはわかりましたが、何が巻き付いているのか、よくわかりませんでした。手で首のあたりを探りましたが、手では縄を触ることができませんでした。トオルは首で血が止まっているのを感じました。徐々に意識が薄れかけていました。
 私はトオルの前に姿を現しました。
「トオル、ねえトオル、聞こえる?」
「…か……か」
「聞いて。アヤちゃんが、何か得体の知れないものと契約をしたみたいなの。他の悪魔かもしれないし、復讐の女神のたぐいかもしれないのだけれど。今、あなたの首を吊っているのは、アヤちゃんよ。信じられないかもしれないけれど、アヤちゃんがふつうにあなた一人の体を持ち上げられるはずがないもの。きっと何か超常的なものの力を借りているに違いないわ」
 私はわざとゆっくり、丁寧に、事の次第を説明してあげました。トオルはそんな場合じゃないだろうというような顔で私を見て、こちらに左手を伸ばして、口をぱくぱくさせました。もうちょっと焦らしても大丈夫かなと思いました。
「トオル、あなたの魂には、まだ少し私の魔力の加速が残っていたと思うから、あなたはすぐには死なないと思う。けれども、このままだと時間の問題よ。いずれあなたの魔力は尽きて、脳は酸素を失い、死に至るわ」
 トオルは足をばたばたさせて、左手をこちらに伸ばしました。首を支点にしてぶら下がっているので、伸ばした左手の向きが定まらずにふらふらしました。
「何をしているの? あっ、ひょっとして、その左手は、私と契約したいのかしら?」
 トオルは首を縦に振ろうとしました。今の姿勢では、最も無理な動きでした。
「ならば、私の足のつま先に口づけをしなさい。それが契約の証になるわ。トオル、あなたに、アヤちゃんを征服する力を授けてあげる。その代わりに、私は、あなたが生きている間でさえも、あなたの魂の衝動を自在に制御する権限を得る」
「か……!」
 トオルの手が宙をもがきました。トオルは、まるで私の言葉が聞こえていなかったかのように、私の左手をつかもうともがいていました。かわいそうに、まだ左手の握手で契約できるような段階だと思っているのでしょう。トオル、もうあなたはより下位の存在へと堕ちつつあるのですよ。
 私はトオルよりも少し高い位置に浮いて、トオルがつま先に口づけしやすいようにしてあげました。トオルは必死の形相で目を見開き、私を見上げました。餓鬼のような、とってもかわいい表情でした。私はトオルの目の前に、つま先を差し出してあげました。それは、我ながら絶妙な距離感でした。トオルに契約の意思がなければ口づけができないような、それでいて、ほんの少しの意思さえあればすぐに口づけができるような、絶妙な距離に、私はつま先を差し出したのでした。
 トオルは死にそうでした。文字通り死にそうな瀬戸際で、首に食い込む縄と、目の前に差し出された私のつま先とを感じていました。
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/96-e8c5cb7d

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

最新記事

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR