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親父の家政婦だった女 第四十八話

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 シャワーから上がり、部屋で待つ。何を待っているのか。西岡を待っているとも云えるし、午前零時を待っているとも云えた。射精の時を待っているとも云えたし、不安定な状態が終わるのを待っているとも云えた。
 不安定である。シャワーを上がるとき、西岡は俺の股間に貞操具を装着しなかった。だから、自室で西岡を待つ一時間半の間、俺は、自力で禁欲しなければならないのだった。愚息が「えっ、もう好きなときに勃起して好きなときに射精していいんですか?」と喜び勇んでいるように見えた。パジャマのズボンの柔らかい布地の上からでも、大きくなっているのが容易に見て取れたし、勃起を隠すのは不可能のようだった。

 西岡はいったん彼女の部屋へ戻って、それからシャワーを使ったようである。今俺の部屋にいるのは俺だけで、一瞬、「ここで一度ぐらい抜いてしまってもばれないのではないか」と魔が差したが、一度でもティッシュに射精してしまえば西岡に露見しないわけにはいかないだろうし、そもそもあと一時間半待てば西岡が来てくれるのだから、その時に凝縮された快楽を得る方が賢明のように思われた。二十日間も禁欲したのだ。溜めに溜めた射精の快楽を、分散して味わうのはもったいないと思った。以前西岡に云われた「十日間我慢してこんなに気持ちいいのだったら、二十日間我慢したらどれほど気持ちいいか」という言葉が、頭の片隅に引っかかっていたのかもしれない。

 西岡が現れたのは日付変更の三十分前であった。風呂上がりの紅潮した顔色であったが、服装はいつも通りの、簡素な白黒の上下だった。
「失礼いたします」
「おお、早いな」
 云ってから、自分が何を早いと思っているのか気づいて赤面する。俺は零時の解禁のことしか考えていなかった。幸い西岡は「何が早いのですか」などと訊きはしなかった。
「健一様、ゲームをしませんか」
「しません」
 俺は即答した。この数日間、いや、もうずっと前から、西岡から持ち掛けられるゲームにはろくなものがない。大抵、俺の性感帯を開発し尽くした挙げ句、知らぬ間に西岡の勝ちということになって、代償として禁欲期間が延びたり、俺を責める責め具が一つ増えたりするのだ。
「ゲームの内容を聞く前から拒絶ですか。残念です」
 西岡は大げさにしょげ返った。
「悪い予感しかしないからな」
「そんなに悪いゲームではありませんよ。ほんの余興です」
 ゲームの内容については、心当たりがあった。
「当ててみせようか」
「ゲームの内容をですか」
「うむ。今は十一時半だろう」
「はい」
「あと三十分で解禁の日になるな」
「はい」
 西岡の顔がほころび始めた。
「その三十分の間、射精を我慢できたら健一様の勝ち、我慢できなかったら西岡の勝ちですわ、とでも云うのではないか?」
「まあすごい、当たらずとも遠からず、です」
 西岡は云い当てられても平気な顔で讃えてくれる。
「それで、俺が負けたらもう一度二十日間の禁欲に挑戦させられる、とか」
「いやですわ、そんな意地の悪いメイドに見えますか」
「うーむ、西岡ならそれぐらい云ってもおかしくないと思う」
 西岡は照れたように、嬉しそうに両手で頬を挟んで体を左右に揺すった。そんな可愛らしい仕草をする女とは思っていなかった。
「健一様がそんな風に思ってくださっているなんて、光栄です。これからはもっとご期待に添えるよう、一層意地悪なメイドを目指しますわ」
「いや、すまん。前言撤回。ちっとも意地悪には見えないよ」
 二人して顔を見合わせてクスクスと笑った。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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