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親父の家政婦だった女 第六十話

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第五十九話へ

 その晩、米田が来てから二日目の夕食の席である。米田は昨日にも増してそわそわしていたが、何かを決意したように口を開いた。
「なあ健一、」
 この切り出し方にはいやな予感がした。
「何だ」
「さっきの話の続きだが、」
 俺はちらりと米田の横の西岡を盗み見た。西岡は聞いていないふりをして視線を落としていたが、俺の視線を感じてか顔を上げた。
「大学の成績が思わしくないようなら、今からでも休学手続きをしてみてはどうだろう」
 やはり大学の話か。何も西岡のいる前でその話をしなくてもよかろうと思ったが、米田にしてみれば西岡と三人揃ったのを狙って話を切り出したのかもしれない。
「休学だと」
「ああ、僕の大学の同期にも一人、おふくろさんを亡くしたやつがいてな。やはりダメージが大きいらしい」
「そうだろうな」
 俺はわざと他人事のように相槌を打った。
「そいつも休学していたよ。休学手続きをすると、二つメリットがある」
 米田は目の前に人差し指と中指を立てて見せた。
「一つは、どこの大学でも大抵そうだが、その期間、学費が発生しなかったり、安くなったりする」
 米田の人差し指がふるふると揺れた。米田は次に中指を揺らした。
「二つ目は、その期間は成績が記録されないということだ。君は今期、かなり成績が悪くなりそうなんだろう?」
 米田は人差し指と中指をまとめて、ピストルを撃つように俺に向けた。西岡も俺を見た。俺は正面の二人から口々に「成績が悪くなりそうなんだろう?」「そうなのですか健一様?」と問いつめられているような気がした。
「まあ、あまりいい成績とはいえなさそうだ」
「ならば休学手続きをしてしまった方がいい。親父さんを亡くした心の傷がふさがらないうちに無理して悪い成績を記録することはないさ」
 米田の云うことはもっとものような気もしたが、いま休学したらいつ復帰できるだろうか、半年、または一年を無駄にしてしまうのではないかという不安も同時に浮かんできた。俺は「ふーむ」とだけ、煮えきらない返事をしておいた。

 西岡はしきりに頷きながら聞いていた。米田が話し終わると、感心したように云った。
「なるほど。悪い成績で記録されてしまうくらいならば、確かに休学してしまった方がいいかもしれませんね」
 西岡は休学に賛成らしい顔をしていた。俺が休学するかどうかが、米田と西岡の間だけで決まってしまいそうな雰囲気を感じて、俺は早めに話を切り上げるために云った。
「まあ、もう少し考えてみるよ」
「そうだな、最終的には君が決めることだ。東京へ戻ったら、君の大学の休学システムについて問い合わせてみることを強くお勧めしておくよ」
「わかった。考えておこう。ありがとう」
 米田はいつになく真剣な顔であった。西岡は、深く納得したように、わざとらしいぐらいにうんうんと頷いていた。

 

 米田の滞在の最終日は、雨のように水っぽいみぞれが降ってスキーには行けなかった。加えて、一日中スキーをした疲れで、俺も米田も体がだるくなっていた。もう十代の若さはないなと笑い合っていたら、お二人が若くないのでしたら私はおばあちゃんですかと西岡が嘆いてみせた。

 昼になって、米田を高速道路の入り口まで西岡の車で送った。じゃあ元気で、よいお年を、と手を振って別れた後、西岡が云った。
「健一様、帰る前に、ネットカフェに寄ってもよろしいですか」
「いいけど、何のために?」
「米田様のおっしゃっていた、休学手続きを確認しましょう」
「あ、ああ」
 昨日から西岡は休学手続きに対して非常に積極的であった。米田からも強く推奨されたし、西岡も積極的なので、何だか休学するのが正しい選択のような気がしてきた。

 カーナビに案内されたネットカフェは無意味に大規模な複合娯楽施設だった。なぜこんな僻地にこんな大型の施設を建ててしまったのかと経営者の判断を疑った。大方、進めると一度決めた計画が途中で後に引けなくなってしまったのだろう。

 受付で自分の名前を書いて会員登録し、西岡と二人で、薄暗く狭い個室に入る。個室には、テレクラやポルノの案内が無遠慮にべたべたと貼ってあった。俺は気まずく思ったが、西岡は気にしていない様子だった。

 西岡に促されるままに、大学ウェブサイトの学生サポートページにアクセスする。曰く、「休学申請が許可されたら学費が半額になる。成績は記録されないし、修業年数にはカウントされない。復学したければまたその時に申請すべし。休学も復学も、申請先は教務課で、許可を出すのは学部長」とのことであった。米田の云っていたことはほとんどその通り載っていた。

 西岡が横から身を乗り出して画面を覗き込んだ。俺のすぐ横に西岡の顔があった。
「米田様の云われたとおりですね」
「そうだな」
「申請はどうするのでしょう」
「おそらく大学の事務で特定の様式に記入して提出するんだろう。いずれにしても東京へ戻ってから……」
 俺が云い終わるか終わらないかのうちに、西岡が画面を指さした。
「あ、ここに申請フォームがあります」
 驚いた。退学・休学・復学の申請手続きが、いまやウェブサイト経由でできる時代である。本人確認と云えば学籍番号とパスワードだけであって、本当にセキュリティ上問題ないのかと心配になった。

 申請フォームを開くと、氏名・生年月日を記入する欄と、休学の事由を記入する欄とがあって、下に「送信」のボタンがある。俺はブラウザを閉じた。
「なるほど、こういうものか。だいたい判った」
「なぜ消してしまわれるのですか。まだ申請は済んでいませんよ?」
 西岡は不思議そうに見つめてくる。ちょっと待て、顔が近い。かすかに香水が香った。
「いや、もうちょっと考えてからでもいいだろう。何も今すぐ申請しなくたって、方法はわかったんだから」
「いえ、ここに学部長の許可が必要と書いてありますから、申請はなるべく早い方がいいでしょう。あまり遅れると、許可が下りる前に後期の成績が記録されてしまうおそれがありますわ」
 成績のことを云われると俺は何も云い返せなかった。まるで、自分の意志が弱くて悪い成績がついてしまうのをここで挽回せよと責め立てられているような気がした。

 西岡は隣の椅子から俺の方へ身を乗り出していて、無意識に俺の膝の上に片手を突いていた。その手が、指先が、時折じわりと動いた。俺は太股をズボンの上から撫でられる感覚に身震いした。
「健一様、」
 西岡は俺の耳に口を近づけて囁いた。空気の振動が耳朶をくすぐった。
「先々のことをお考えください。この先、就職や進学をされるときに、大学の成績をチェックされることもないとは限りませんわ。それを思うと、今期の悪い成績は、なかったことにした方がいいのではありませんか」
「いや、まあ……」
 俺は西岡の囁き声につられて、小声で言葉を濁らせた。確か、俺は先のことを考えていたはずだった。いま休学するよりは、悪い成績でも何とか単位を取得して、ストレートの年数で早く医師免許でも何でも取ってしまった方がいいとか何とか、そんなことを考えていたはずだったが、今俺の意識を占めるのは、膝の上にさり気なく置かれた西岡の手と、耳をくすぐる囁きの声であった。

 俺の目はパソコンのデスクトップを見ていた。耳には西岡の囁きが入ってきていた。耳元で西岡が「くす」と口角を上げたのを感じた。
「もし先々の人生ことが考えにくいようでしたら……」
 膝の上の手が股の間に割り込むように動いてきた。
「目先の条件をつけて差し上げましょう」
 西岡の囁きが耳から直接脳に響くような気がする。俺はモニターを見つめている。
「ちゃんと休学申請が書けたら、今ここでいかせて差し上げますわ」
 西岡の指先が、貞操具のプラスチックにコツッと当たった。それだけで、俺の心臓はぎゅっと掴まれたように、鼓動を急いだ。長野の別荘へ来てから、新しい家事を覚えたり、来客をもてなしたりして、ずっと射精はさせてもらえていなかった。そこをコツコツとつつかれる振動だけで、今まで忘れようとしていた欲望が、腹の底から煮えたぎり湧き上がってくるのを感じた。

 頭の片隅で、誰かが警鐘を鳴らしていた。「危険な誘導、危険な誘導だ! 今まで、この手の誘惑と誘導に何度引っかかってきたことか!」しかし、一方で、この休学申請が米田の勧めであることが、俺を安心させてもいた。この休学手続きが、もし西岡一人の主張だったとしたら、そもそも手続きの方法を確認しにネットカフェまで来ることもなかったかも知れなかった。

 西岡の指先は俺の股間をコツコツとつついていた。俺はその手を退けようとした。
「わかった。申請を書くから、少し落ち着かせてくれ」
 しかし西岡は断固として手を退けない。
「だめです。横から色々と、意地悪をさせていただきます。それでも書きあげられたら、いかせて差し上げます」
 西岡はニヤリと笑った。西岡の手が俺の胸板に伸びてきた。
「よせ、待て。そんなことをして何の得がある」
「得のためにしていることではありませんわ。ほら、手が止まっていますよ」
 西岡は椅子を立ち、俺の座っている椅子の後ろに回り込んだ。後ろから負ぶさるようにして、まるで蔦が建物に絡みつくように、肩越しに腕を伸ばして俺の胸板を指先がまさぐる。指先が上着の中へ入ってきた。肌着の上から、爪が乳首をかりっと掻いた。以前よりも自分の乳首が敏感になっているのを感じた。乳首から背骨へ、快楽信号が送り込まれる。ペニスは窮屈そうにぎちぎちとプラスチックケースを押し上げた。
「まあ待て。落ち着かないと書けない。頼むから」
「ご心配なさることはありません。私が飽きたらやめますわ」
 その言葉に俺は一瞬安堵した。が、その後、恐ろしい可能性に気がついた。ひょっとして、西岡が「飽きたら」、たとえ俺が休学申請を書き上げたとしても、もはや逝かせて貰えないのではないか。「それは困る! 俺はもうその気になっているのだ。出させてくれ!」ペニスが檻の格子を揺すった。

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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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