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※この作品は(と云っても他の作品もですが、これは特に)フィクションです。実在する国家、学校、電力会社、発電方法とは何の関係もありません。
職員室のテレビで全国大会決勝戦の映像が放映されている。どこの都市かは明らかにされていないが、制服姿の中学生がアパートの階段の陰と自動車の陰に隠れて銃を撃ち合っている。一人の女子生徒が自動車の陰から走り出し、次の瞬間彼女の制服腹部が蛍光グリーンに染まった。アパートの階段から撃たれたのだろう。すぐに審判服を着た三人の男が駆け寄り、彼女に脱落を宣告し控室へ案内する。試合は夕方には終わるだろう。
私はそれを横目で見ながら次の授業の資料を準備していた。今の三年生は都内予選第四位という優秀な成績を残した。次は私たちの担当する学年が三年に上がる。彼ら次期三年生が「ペイント弾合戦」で残す成績如何によって、私たち担任団の処遇が決まってくる。何としても負けるわけにはいかない戦いだ。
尤も、私たちの処遇といってもせいぜいは「底辺校」とか「島嶼部」の学校に転勤させられるぐらいのもので――とは言えこのご時世「島嶼部」は充分に命取りだが――、本当に心配すべきは生徒らの行く末だ。学年最後に行われる卒業試験にも似たこの全国中学校対抗ペイント弾合戦は、成績上位校の生徒の自衛軍キャリアコース行きと、成績下位校の生徒のヌン発行きを約束していると噂されているからだ。
ヌン発――ヌン子力発電は、今のヌッポンのエネルギー供給を陰から支える、エネルギー政策の暗部だ。一頃、ヌッポンのすぐ隣の半島にN国という全体主義国があり、そこのサッカー選手はワールドカップで負けると炭鉱行きだと噂されていたという。ヌン発も同じようなものだ。化石燃料に頼らず半永久的に莫大な電力供給を可能にする代わりに、周辺に有害な放射性物質を撒き散らし、ヌン発従事者の平均寿命はそうでない人に比べて三十年は短いらしい。そんな危険な発電方法をヌッポンが採った理由は、一つには産油国や米国との軋轢があり、もう一つにはヌン子力兵器開発のためでもあった。もっともそんなことは生徒に教えなくてもいい。
「起立、気をつけ。これから学活を始めます。よろしくお願いします」
日直が無表情に挨拶をする。規律とメリハリのあるけじめは我が校の重点目標である。
「はい、今日は学活の時間を二時間続きで、これについての話をしたいと思います」
生徒に配ったのは全国中学校対抗ペイント弾合戦・都内予選の結果を報ずる新聞記事。我が三鷹一中を青梅西中が破り、都の決勝戦に出場したことが載っている。
「ペイント戦だ!」
ハヤトが興奮して声を上げる。私が注意をしようとしたが、ハナが一足早く「ハヤト」とたしなめた。
「そう、ハヤト、発言は手を挙げなさい。ペイント戦、正しくは、『全国中学校対抗ペイント弾合戦』ですが、皆さんも知っている通り、今の三年生は都の準決勝まで進出して、都内四位の好成績を残しました。次は皆さんの番です」
生徒たちは黙って聞いている。
「このペイント戦は皆さんの卒業後の進路選択に極めて大きく影響します。企業でも役所でも、『ああ、75年の三鷹一中卒ね、あの東京で四位の』と思ってもらえれば、まあどこでも望む職場に就職できるでしょう。逆に、隣の三鷹二中は早い段階で敗退させましたが、そこの卒業生は『三鷹二中卒? ダメダメ、うちじゃ雇わないよ』と云われるに決まっています。つまり、みなさんの戦績は学校ごとに評価されます。ほとんどの人がしっかり努力して戦ったとしても、怠け者が一人いるだけで、学校全体の戦績が下がる、つまり、学校全体が就職の際に不利になることになります」
第二話へ
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