「うーむ、でも、キリスト教も当時は新興宗教だったわけじゃないスか。そう考えると、えーと、ナンだ、それはトマスが正解ですよ。見ないで信じたらどんな悪徳に騙されるかわかったものじゃない」
「成程、興味深い話をありがとうございます。でもそうすると、トマスは今まで苦難を共にしてきた仲間の弟子たちも疑いながら生きるべきだ、ということになります?」
……あれ? 確かにそういうことになるなあ。
「確かに、そう云われてみれば、それはちょっと寂しいですね」
女の子は嬉しそうな顔をする。
「とまあ、こんなふうに、様々な大学から参加している色々に違った考え方を持った学生が、集まって意見を交換したり、議論したり、ただ語り合ったりするサークルなんです。どうですか、興味ありませんか」
無くはない。が、それ以上に怪しい。できれば関わりたくない。女の子は可愛い。次の講義までは暇だ。俺はどのサークルにも所属していない。関わるときっと後で面倒だ。
「うーむ」
「あっ、ごめんなさい、いきなりこんなこと云われても困っちゃいますよね。今日、サークルのメンバーで集まりがあるんですけど、それを見学していかれませんか? そうすれば私達のこと、よくわかってもらえるんじゃないかと思うんです」
「えっ」
何だ、何だこれは。いつの間にか俺が入会を検討しているかのような口ぶり! この娘、手ごわい。
「いやあ、まだ入ると決めたわけじゃないんで」
「あっ、もちろんです。どんな雰囲気の集まりなのか見るだけ見ていただいて、私達のこと知っていただきたいっていう感じですから。あの、今日この後って予定空いてますか?」
「いや、えーっと」
何だろう。こう、かわいい女の子に今日この後の予定を聞かれるのは何だか悪い気がしないぞ。
「午後七時まで講義があって、そのあとは空いてますよ」
「あっ、よかった! じゃあ、見学者一名追加って連絡しておきますね! お名前、伺ってもいいですか」
今、一名『追加』と云った。見学者は俺のほかにもいるらしい。けっこう規模の大きい会合なのか。
「あ、中村です」
「中村さんですね。わたし、池田 緑っていいます、よろしくお願いします。あっ、念のため電話番号教えておいてもらってもいいですか」
電話番号を教えると色々とあとが面倒だなあ。メールアドレスならば、困ったら黙って変えれば連絡を絶てるし、ここはメアドにしておこう。
「いっ、やー、電話番号はちょっと……。メールアドレスでもいいっスか」
「あっ、はい! 大丈夫です!」
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