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悪魔とトオル第二部 第二話

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 カラオケ店内での男子校生変死事件はテレビや雑誌で大々的に報道され、トオルの学校でも大騒ぎになっていました。ただ、報道されているのはケイスケの変死体だけで、アヤについては報道は一切触れませんでした。
 トオルのことは、ときどき様子を見に行くことはあるにしてもしばらく放っておくことにしました。トオルは時折虚空に向かって「おい悪魔よ」と呼びかけることがありましたが、私は答えませんでした。今は、何でもかんでも力を貸すのではなく、トオルの成長のために、突き放すようにして一歩引いたところで見守るのが大事だと思いました。それに、契約上、もう私には呼びかけに応える義務がありません。トオルは頼みにしていた悪魔にさえも見放されたように感じて打ちひしがれながら、それでも周囲から怪しまれないようにするために毎日学校に行き、アヤに関する噂に耳をそばだてました。アヤは学校では、病気で長期入院していることになっているようでした。ケイスケが原因不明の死を遂げたことからの精神的ショックかな、というのが、学校の生徒の大方の見方でした。
 トオルの胸にはインプが順調に、あの日の記憶を深く刻みつけつつありました。トオルはしばしばアヤの力なき抵抗を思い出して自慰をしました。トオルは自分が何をしてしまったかを理解していましたし、またそれが社会的に決して許されない行為であり欲望であることをしっかりと理解していました。トオルは自分が隠れてうまく逃げおおせたことを頭ではわかっていながらも、ときどき、警察がトオルの家に訪ねてくる事態を想像しては青くなりました。それでいながら、深く刻みつけられつつあるあの日の快楽は、トオルの胸を黒く焦がしました。トオルは、抵抗するアヤを、抵抗する女を、また力づくで征服したいと、自分が願っていることに気づかないふりをしました。

 アヤは三日三晩意識を取り戻しませんでした。三日目の晩、私はアヤの昏睡を訪れました。
――アヤ、アヤ……聞こえますか……今、あなたの心に……直接……呼びかけています――
「聞こえるわよ、それ毎回やるつもり?」
――あなたはもう三日間近く、眠り続けているわ。そろそろ意識を取り戻さないと、身体がもたない――
「え、ちょ、やだ、死にたくないよ」
――ええ、もちろん、私は復讐を司る者、復讐の力を授ける者。あなたを死なせるつもりはないわ――
「よかった。ならば私は復讐を成し遂げると誓うわ」
 アヤは不用意に誓いを口にしました。トオルは別として、この国の人間は超自然的存在に対する口のきき方をわきまえていない人が多いようです。
――あなたに生命力を吹き込んでおきました。アヤ、あなたはこれから、意識を取り戻すわ。それに先だって、確認しておきたいことがあるの――
「確認?」
――あなたは、ケイスケを刺し殺し、あなたを暴行した犯人がトオルだということを、お父さんやお母さんや警察の人たちに話すつもりかしら、それとも胸に秘めておくつもりかしら?――
「それはもちろん……」
――よく考えて答えなさい。現場でトオルを目撃した人は誰一人いないし、警察の捜査はまるで見当違いの方向へ迷走しているわ。今ここであなたがトオルの名前を出すことで、有利に働くことと不利に働くことを、天秤にかけて考えてごらんなさい――
「不利に働くことがあるというの?」
――トオルがあなたを姦して去ったという話は、根拠が浅すぎるの。現場には指紋が残っていなかったし、トオルの体液はDNA鑑定に耐えるほどきれいに残ってはいなかった。何より、トオルは悪魔の力を使って、現場から煙のように消えてしまったの。あなた一人が『トオルが犯人だ』と主張しても、ただの妄想ととられかねないわ――
「でも、誰かが私の話を信じてくれたら、あいつを追いつめることができるでしょう」
――そう、それが有利に働く要素。だけれど、あなたにはもうひとつ、不利な要素があるわ。あなたがもし、私が授けた復讐の力を使って、しかも人知れず復讐するつもりならばね――
「どういうこと?」
――想像してごらんなさい。あなたが『トオルが犯人よ』と主張する。周りの人は信じない。そのうち、あなたが超常的な力でトオルを討ち滅ぼす。周りの人は、誰がトオルを殺したんだと犯人を捜す。そういえば、アヤという女の子が、独り、トオルが犯人だと主張していたなあ――
「云いたいことはわかったわ。つまりあなたは、黙って復讐を成し遂げるべきだと云いたいのね」
――いいえ、最終的にはあなたが決めなさい。周りの力を頼って包囲網を張るのか、独りで復讐を成し遂げるのか、ね――

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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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