アヤは意識を取り戻しました。警察は、最初こそアヤの身体を気遣うそぶりを見せましたが、次の瞬間にはもう、犯人や犯行当日の状況をアヤに問い質していました。
アヤは犯人について、こう答えました、「暗くてよく見えなかったので、私の勘違いかもしれませんけど、同じ学校の、トオル君かなと、一瞬思いました」。うまい答え方だと思いました。これで警察がどう動くかは分かりませんが、このことをトオルに教えてあげるのは面白いと思いました。「アヤちゃんがあなたのことを警察に云ったわ」と伝えてあげるだけで、トオルは更なる不安に苛まれてくれることでしょう。
その晩、私は再び、病院のベッドで眠るアヤの夢に現れました。
――アヤ、アヤ、聞こえますか……今……あなたの心に……――
「うるさいわね、聞こえるわ」
――トオルの名前を出したのね、警察に――
「ええ、やっぱりそれがいいと思ったの」
――悪くない判断よ。きっとトオルは間接的に苦しむはず。だけれど、それは両刃の剣でもある。昨日、説明したとおり、あなたが復讐を成し遂げた後、あなたにも災いが降り懸かるかもしれないわ――
アヤは挑戦的に頷きました。
「それでいいの。どうせまっとうに生きようとしてもこの先の人生は真っ暗だもん。それならば、復讐に全力を注いでやろうと思ったの」
――立派な考え方よ。復讐を司る者として、アヤ、あなたを誇りに思う――
アヤは困ったように苦笑しました。
――それで、復讐の具体的な手段だけれど――
「ええ」
――なるべく早い方がいいと思うの。次の被害者が出る前に、あなたがトオルを止めるのは――
「そうね」
――彼にふさわしい刑罰は、アヤ、何だと思う?――
「もちろん死刑よ。……いや、死刑でも手ぬるいわ、もっと苦しめて、苦しめつくして……」
――その心意気よ、アヤ。裁きの剣の名にかけて、教えてあげる、トオルにふさわしい刑罰はね、絞首刑よ――
「絞首刑?」
――そう、絞首刑、自分の罪の重さによって、首に縄が食い込む刑罰よ。ケイスケを刺し殺し、あなたの首を絞めて無理矢理に犯したトオルにはふさわしい刑でしょう――
「ええ、確かにそうね。それで? どうすればトオルを絞首刑にできるというの?」
アヤの目が輝いています。復讐の炎に燃えています。美しい炎です。
――あなたに首吊りの縄を授けます。アヤ、あなたは、次の満月の晩、深夜零時に、トオルを学校の校舎裏に呼び出しなさい。『話がある』とでも何とでも云えばいいわ。でも、あなたは屋上でトオルを待つの。屋上に首吊りの縄を用意しておくわ。トオルが待ち合わせの場所に来たら、その縄を屋上から垂らしなさい。それだけであなたの復讐は成就する。縄は勝手にトオルの首に巻き付くの。そうしたら、あなたは縄を思いきり引き上げればいい――
「そんな、無理よ、わたしが人間の体重を吊り上げるなんて」
――心配することはないわ。あなたには復讐の力を授けてある。その瞬間だけは、超常的な力を発揮させてあげる――
アヤは半信半疑でした。
退院してから、アヤは何度かトオルに電話をかけようとしました。でも、トオルの電話番号が携帯電話の画面に表示されて、通話ボタンを押す直前で踏みとどまるのでした。満月の日まではあと三日でした。
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