「やっほー、トオル、久しぶり」
「あっ、貴様、悪魔! 呼んでも出てこないと思ったら、呼ばないときに出て来やがって!」
「あはは、何を云っているの? もうあなたとの契約は切れているんだもの、当たり前でしょ? それとも、また新しく契約する? 今度は何を対価にくれるの?」
「くっそ」
トオルはやけになって私に殴りかかりました。私は姿を消して、トオルのすぐ後ろに現れ、耳元で囁いてあげました。
「そうカッカしないの。ハンサムな顔が台無しよ」
トオルはさらに肘を後ろに振り回して私を殴ろうとしましたが、トオルが殴ったのはスチールの本棚でした。トオルは肘を押さえてうずくまりました。
「トオル、聞いて。今日はあなたに警告をしに来てあげたの。アヤちゃんが退院したわ」
「知ってる。学校にも来ていた」
トオルはうずくまったまま力なく答えました。
「アヤちゃんは、犯人があなただということをしっかりと憶えていたわ。それどころか、警察にも『トオル君かなと思いました』なんて伝えていた」
「何だと」
「本当よ。トオル、このままアヤちゃんを放っておくと、ろくなことにならないわよ。早いうちに何とかした方がいいんじゃないかしら」
トオルは不安に打ちひしがれたような顔でうつむきました。
満月の日の朝になりました。私はアヤの携帯電話のスケジュール帳に『満月の日 復讐を実行するならば今夜です――復讐を司る者より』と表示させました。アヤは恐ろしいものを見たように、すぐに携帯電話を閉じました。アヤは今まできっと、半信半疑でした。『復讐を司る者』が夢の中にしか出てこなかったからです。ですが今になって、携帯電話にデータが入っていたことで、アヤは百パーセント信じてくれたことでしょう。
午後、アヤが学校から帰ってきたときに、私はアヤの心に直接呼びかけました。
――アヤ……アヤ……聞こえますか……今……あなたの心に……直接……呼びかけています――
「き、聞こえるわ」
――復讐を成し遂げるならば今夜よ。まさか忘れてはいないでしょうね、復讐の誓いを。満月の晩、深夜零時にトオルを校舎裏に呼び出すことを――
「忘れてたわけじゃ、ないわ。今、あいつに、電話するところよ」
――そう、それなら結構。屋上に縄を用意しておくわ。後は私の云うとおりにしなさい、本当に復讐を成し遂げたければね――
アヤからの電話を受けて、トオルは携帯電話をパタンと閉じました。「話があるの。今夜十二時に、校舎裏まで来てもらえる?」――。トオルの胸には、覚悟じみたものが広がっていました。トオルはこう考えていました。
『悪魔の話によると、アヤは僕の犯行を憶えていて、それを警察に伝えたということだ。そのアヤが僕に話があるという。逆に考えれば、これはチャンスだ。アヤと一対一で話ができるのであれば、アヤがどこまで憶えていて何を警察に話したのかを詳しく訊くことだってできようし、また、深夜の校舎裏ならば、多少乱暴なことだって』
トオルの胸には、覚悟と同時に、甘く黒い期待が芽生えつつありました。アヤと一対一で、しかも深夜の校舎裏で会う。強引にアヤを問いつめるという形をとれば、自然な流れでアヤに乱暴なことをすることができる。ただトオルは努めてそのことから目を逸らそうとしていました。
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