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悪魔とトオル 第九話

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 トオルはあとからカラオケ店にやってきて、別の階の部屋に入りました。部屋をできる限り暗くし、カラオケの音量を小さくして、申し訳程度に歌の練習をしているふりをしていました。
 アヤとケイスケの部屋には、一種異様な空気が漂っていました。二人にとっては、初めて、閉鎖的な空間に二人きりでいるのでした。アヤはなるべく普段通りのコミュニケーションを心がけていました。ケイスケは、こういう場合に特殊の何かを意識してそわそわしていました。その空気はアヤにも伝わっていましたが、アヤはなるべく気にしないようにして歌に集中しようとしていました。ケイスケはケイスケで、アヤのバリアーの気配を感じ取って、しかしながらそれで余計にそわそわしているのでした。
 ケイスケとアヤは交互に歌い、必ずどちらか片方が歌っているため決して二人が差し向かいで何かを交わすようなことにはなりませんでした。アヤが歌ったのをケイスケが何気なくほめてアヤがいい気になるようなことは何度かありました。しかし、殊、男女の間のことに関しては、二人は明らかにそれを意識しながらも、決して一歩先へ踏み出そうとはしませんでした。
 私は、13号室のドアの外から猫の姿で「マー―オ」と低く一声鳴きました。猫の発情期の鳴き方は、人間の平常心をかき乱します。猫の鳴き声自体はドアに阻まれカラオケの伴奏にかき消されて二人の耳に聞こえることはありませんでしたが、ケイスケの魂にはうまく作用したようです。ケイスケは「ああ、ちょっと疲れた」と云ってカラオケルームのソファにぱたりと横になりました。アヤとの距離があとほんの少し近ければ、膝枕になっていたところでしょう。ケイスケの頭はちょうどアヤのスカートの裾の広がりの上に落ち、アヤの太股に横から当たる形になりました。アヤは嬉し恥ずかしながらも自分の入れた曲を歌いました。まあ、これがベストタイミングだろう、と私は思いました。アヤが歌い終わればケイスケの歌う番になり、ケイスケは起き上がってしまいます。そうなる前に、一番いちゃいちゃしてるふうに見えるときに、トオルをここに突入させようと思いました。
『トオル、ねえトオル、聞こえる?』
『突入か』
『ええ、そうよ。急いで13号室にいらっしゃい。あなたのやるべきことはたった一つ、わかっているわね』
『ああ、もちろんだ』
 間もなく13号室のドアがバーンと開かれました。殺意の衝動に突き上げられたトオルの形相は凄まじいものでしたが、そのくせトオルは何を根拠にケイスケを打ち倒せばいいのか迷っているふうでもありました。トオルは決してアヤやケイスケの顔を見ようとせず、視線を少し下に落としたままカラオケルームの中を見渡しました。アヤとケイスケは最初店員が入ってきたのかと思い、店員の理不尽な行動に怒ろうとしました。二人はそれが店員ではなく同じ学校の生徒だと理解するまでに一瞬遅れました。アヤとケイスケが固まっている一瞬に、トオルは部屋の中に進み入って、ケイスケに躍りかかりました。
「ケイスケてめえええええええ!」
トオルの憎悪は根拠を全く持たず、従ってケイスケに対する怒りや罵りの言葉は具体性を持ちませんでした。ただ全く純粋な憎悪と殺意が、「てめえええええ」という言葉に表されていました。トオルはテーブルの上に足を乗せ、ソファに寝転がるケイスケめがけて右手を振りかざしました。アヤは隣で頭を抱えました。ケイスケは起き上がる暇もなく、自分の頭を腕で守ろうとしました。
 次の瞬間、トオルの爪がケイスケの胸を抉りました。ケイスケは白目を見開いて「かっ」と小さく息を吐き、それから一、二度身体をびくりと痙攣させた後、ぐったりとソファの上に身を横たえました。魔力がトオルの指の先から伸びてケイスケの胸を貫き通し、心臓を握りつぶしたのです。身体から生命力が失われ、しばらくの沈黙の後、ケイスケの体はソファから床へと落ちました。

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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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