「な、悪魔、今頃になってその云い草! なんだ、この惨状は。どうして、……どうしてこんなことになってるんだ。全部お前が仕組んだのか!?」
トオルは責任を私に押し付けようとしました。どうしてこんなことになったのか、本当に理解できていないのでしょうか。いいえ、理解したくないだけなのです。わたしはトオルが可愛くて、いとおしくて、抱きしめてあげたくなりましたが、今は我慢です。
「いいえ、これはトオル、あなたが成し遂げたことよ。そんなことより、今この場から逃げる算段を考えた方がいいのじゃなくて?」
「なん、っ、……どういう……」
トオルは二の句が継げないようです。わたしが継いであげましょう。
「あなたはケイスケを殺し、アヤちゃんの首を絞めて、無理やり姦してしまったわ。この場を店員の人に見られたら、申し開きができないでしょう? きっとあなたは刑務所送りになって、悲惨な余生を送ることになるわ。だから、人に見られずに逃げる方法を教えてあげましょうかって云っているの」
トオルが押さえるドアの向こうでもう一度、拳で強くノックする音が聞こえました。「○○様! ○○様!?」と、今度は複数の男の店員が大声で呼ぶ声が聞こえました。
「っ……、教えろ」
「だーめ、教えないわ」
トオルの顔色が青くなりました。
「だって最初の契約はもう果たしたじゃない。ここから逃げるための方法を教えてほしければ、再度の契約が必要よ」
立て続けにドアを強く叩く音が聞こえました。「開けてください! ここを開けてください、○○様!」と大きな怒鳴り声。
「汚い悪魔め、契約の条件は何だ」
「死ぬまで私に仕えなさい。そうして、死後は魂を私のものに」
私は勝ち誇ってトオルを見下しました。トオルは心が折れそうになりながらも、私をキッと見返して云いました。
「くっそ。それならば人間に裁かれた方がずっとましだ」
ドン、ドンと、部屋のドアに体当たりする振動が響きました。トオルは全力でドアを押さえていました。
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