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悪魔とトオル 第十三話

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「じゃあ、死後の魂だけでいいわ。それならばどう?」
「よかろう。再度契約だ」
トオルはドアを押さえながら、どうにか左手を差し出しました。わたしも微笑んで左手を握り返しました。契約内容は、死後に魂をもらうことを条件に、ここから人に見られず逃げる方法を教えること。なんて破格な契約でしょう。お得すぎて涎が出てきてしまいます。
「じゃあ、この左手を離さないでね。今、あなたが私と左手をつないでいる間だけ、あなたの姿が誰にも見えなくなる魔法をかけたわ。もうドアを押さえていなくても大丈夫。店員が中になだれ込んでくるけれど、あなたが目撃されることはないわ。さ、行きましょ」
 トオルが部屋のドアから手を離した途端、店員が三人、部屋の中へなだれ込みました。「何だ、これは」「警察に電話だ」などと口々に声を掛け合っていましたが、私とトオルはその横をすり抜けてカラオケ店を出ました。そのあと、トオルは逃げるようにして家に帰りました。トオルはみんなから見られているような錯覚を抱いていました、実際のところ誰もトオルを気にしてはいませんでしたが。

 家に帰るとトオルはベッドに潜り込み、布団を頭から被ってがたがた震えました。人を殺してしまった恐怖もありましたが、アヤを征服した時の興奮が一番トオルの記憶に強く焼き付いていました。
 トオルのペニスにはアヤの血がべっとりとこびり付いていました。トオルはベッドの中でペニスを握り、一生懸命に擦り始めました。アヤの抵抗する力がだんだんに弱まっていく感覚が、トオルの記憶の中でリフレインされました。
 トオルはアヤの抵抗する様子を克明に思い浮かべ、異常なまでに興奮しました。アヤの体温、汗のにおい、締めつけられた喉から漏れる呻き声、太股に滴る血を、トオルは鮮明に思い出しました。トオルは吐き気と陶酔の両方を覚えながら、興奮の絶頂に達しました。
 トオルのペニスが膨大な量の精子を放出した直後、私はトオルのベッドのすぐ下で魔法のお香を焚きました。トオルは射精後の虚脱感と憂鬱とに包まれましたが、お香がその憂鬱をさらに強いものにしました。強烈な空しさがトオルを襲い、トオルはその香りに包まれたまま眠りに落ちました。
 こう云ってはなんですが、ちょろい契約でした。悪魔丸儲けだと思いました。下ごしらえの成果とはいえ、形の上では「ここから逃げる方法を教える代わりに、死後の魂を貰い受ける」契約が成立したのです。今後、私はもはや何の制約も受けず、何の義務も負いません。ただ手を拱いてトオルが死ぬのを待っていれば、適度に穢れた魂が私のものになるのです。ですが、それだけでは面白くありません。せっかくいい素材に出会えたのですから、トオルが死ぬまでのあと少しの時間を、面白おかしく演出してあげたいと思います。そうすれば、もっともっと素敵に穢れた魂を地獄へ送ることができるというものです。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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