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親父の家政婦だった女 第二十一話

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 その日の事件はそれで済んだ。それから数日の間、俺の生活は何事もなく平和に進んだと云ってよい。無論、自分が何を約束してしまったのかはよく分かっていたから、毎食後の錠剤はきちんと十錠ずつ飲んでいたが、服用初日に感じたような急激な精子生成作用などというものは実際は錯覚で、例えばコーヒーを飲んだ直後に目が覚めたような気になるのと同様――カフェインはそんなに速く効くものではない――、偽薬効果とか想像妊娠に近い性質の現象だったんだろうと思う。気にしなければどうということはない。大学に出ても、人前で勃起しかけて痛みに呻いたり、冷や汗をかいてすぐにトイレの個室に駆け込んだりすることはなくなった。俺は股間に貞操具を装着した状態の日常生活に、徐々に慣れつつあった。
 一つ、慣れないものがあるとすれば、自慰の習慣であった。今までは、西岡が買い物に出ているなどして自室に独りで居る機会ができた時、むらっときてすぐに抜いていた。もう貞操具生活は一週間にもなるが、未だにその習慣は身に染み付いているようであった。だから、たまにむらっときて、じゃあ抜いちゃおうかなと愚息に右手を伸ばしてみるのだが、それで初めて愚息が貞操具に拘束されて自慰ができない状態だったことを思い出すのである。俺のパソコンの秘蔵コレクションである「マイ ドキュメント¥新しいフォルダ¥」は、ここ一週間、一度も開かれていなかった。

 西岡はあれ以来、変な悪戯を一切やめてしまったようである。まるで性的なことに関心を持たず、ただただ家事を能率的にこなして主の住環境を整えることのみに専念しているようであった。彼女が俺に性的な悪戯をしたことすらも忘れてしまったかのように思われたが、しかし毎食後必ず、精子の生成を活発にするビール酵母の錠剤は十錠きっかり出されるのであり、俺はそれを飲むほかないのであった。一度、「食欲がない」と口実を作って、錠剤を含め、朝食をまるごと放棄したことがある。すると西岡は、「この錠剤は胃腸を活性化しますから、これだけでも飲んでお出かけください」と云って頑として許さなかった。あれを撥ね退けることが俺にできただろうか、とあとから自問してもみたが、しかしとにかくその日それを拒否する勇気は俺にはなく、以来、俺は錠剤を飲むことを拒めなくなった。何より、あの晩「約束」をしてしまったことが、俺の心理に重荷を負わせていたのである。

 さらに数日が過ぎて、西岡は依然として「ごく普通の有能な家政婦」であった。さすがに、何かにつけてむらっとくる頻度が高くなっていた俺は、ひそかに西岡の豹変を待ち望んでいた。もしかしたら今晩、寝具に、或いはシャワー室に、ふいに侵入してきて、予想もしないような性的悪戯を仕掛けてくるのではないか、と、毎日のように身構えていたが、しかし、その期待はことごとく空しく終わった。

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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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