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聖トリニティ退魔士会 第五話

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 次の会合の連絡は大原さんがしてくれるというので、大原さんにメールアドレスを教えて別れた。
 今日は楽しかった。他人とこんなにちゃんと議論が噛み合ったのは初めてかもしれない。他のところで話し合いをしようとすると、たいがい議題が迷走したり、云いたいことが歪曲して伝わったりするものだ。『もみの木の会』では、意見の相違こそあったものの、どこが違うのか、お互いがはっきり認識したうえで建設的に議論が進められていたように思う。俺は知識が少なかったから何ともしょぼい参加の仕方しかできなかったが、次はしっかり知識を身につけてあの話し合いに参加しよう。俺はウキウキして帰路についた。

 その日から、週に一回、大原さんから会合の案内メールが来た。俺の方の都合で参加できるときとできない時があった。他の参加者も来ていたり来ていなかったりしていて、メンバーは日によって少しずつ入れ替わった。だが中には大原さんのようにほぼ毎回出席している人も三、四人いる。きっと中核メンバーなんだろう。
 何度か話し合いに参加して、だいたいこのサークルの雰囲気がつかめた。普段はみな冷静に、論理的に、互いの考えを尊重しながら話し合いをしようと心がけているようだが、まあそれでも、自分の信条に関わる議題で意見が対立すれば熱くなってしまう。そんなときはたいてい大原さんが間に入ったり、フォローしてうまく場を回していた。俺が他の参加者の地雷分野に踏み込んでしまった時には、「いや、中村くんが云いたかったのはね……」と間に入ってくれたおかげで助かった。だから、稀に大原さんが参加していない会合があると、俺は非常に心細かった。大原さんは上から目線だし馴れ馴れしいし思い込みや決め付けが激しいが、俺は大原さんを尊敬し始めている。

 ある日、大原さんからこんな案内メールが届いた。宛先アドレスは大原さん自身のケータイだった。BCCによる一斉送信のようだ。
『『もみの木の会』の皆さま
 今週の会合は4月27日(金)18時から、三鷹市井口コミュニティセンター第一会議室で行います。今回は特別に『トリニティ』の助祭を務める田口栄光先生のお話を聴くことができます! 皆さんなるべく予定をつけて参加しましょう!』
 俺はこのメールを見て一抹の不安を覚えた。「トリニティ」とは何だ。いやに怪しげな響きだ。さすがに心配になって「トリニティ」でググってみたが、三位一体に当たる語だということ以外はわからなかった。
 大原さんに、「『トリニティ』って何ですか」というメールを送ってみたものの、返事はない。
 俺は迷った。他の人はみな参加するんだろうか。メールの文面から察するに、「トリニティ」というのは『もみの木の会』と昔から関係の深いもののようだし、そこに何の説明も付加されていないということは、古参のメンバーはみんな知っているものであるらしい。
 『もみの木の会』の勧誘の女の子に「見ないで信じる者は幸いである」と云われたことを思い出した。そういえば、「苦楽を共にした仲間をも疑って生きるんですか」とも云われた。
 いや、わかっている。新興宗教ならば疑ってしかるべきだ。
 しかし、見ないで疑うのは馬鹿げている。
 そうだ。行って、見てみよう。「トリニティ」というのがどんな連中なのか、「助祭の田口栄光先生」というのがどんなことを云うやつなのか、俺のこの曇り無き眼で見極めてやろう。信じる信じないは、その後でいいだろう。

第六話
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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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