2ntブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/65-91182d26

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

聖トリニティ退魔士会 第九話

第一話へ
第八話へ

 それから俺たちは田口先生を交えて、普段の会合と同じように、身近なことや聖書のことなどについて語り合った。田口先生はあまり口数多く話さなかったが、彼が微笑んで皆の話を聞いているだけで存在感があった。誰もがそこにいる田口先生の目と耳を意識して発言しているようだった。
 会合の最後に、田口先生が口を開いた。
「皆さん、今日は、私たち全員の成長のために意味のある時間をいっしょに過ごさせていただき、本当にありがとうございました。お別れの前に、私たち『トリニティ』の活動を皆さんに見学していただく合宿所ツアーをご案内いたします。こんど、五月十八日から二十二日までの五日間、北海道の十勝川周辺の合宿所を限定公開するのですが、宿泊施設の数の関係で、一度にご案内できる人数が十名までとなっています。そこで、今回は、皆さんの中から十名まで、合宿所にご招待したいと思います。ざっと数を知るために、希望される方、今ここで手を上げていただけますか」
 俺が躊躇している間に、周囲の参加者が迷いなく一斉に手を上げた。えっ、何、これ。この合宿ってそんなに有名なものなの? そんなに我先にと見学したいほど価値のあるものなの?
「わかりました、ありがとうございます。希望者が十名より多いようですので、抽選とさせていただきます。希望される方は申込用紙にご記入ください。後日担当者のほうから連絡させていただきます」
 周囲の参加者が一斉に立ち上がり、田口先生の前に列を作って、用紙をバケツリレーのように手渡していく。大原さんも立ち上がろうとして、躊躇している俺を見た。
「中村くん、行かなくていいの? こんなチャンスめったにないよ?」
 いや、俺が躊躇っているのは、そもそも「トリニティ」って何なのかってことで……、いやしかし、先刻「話を聴けばわかるよ」と云われた同じことを同じ人に再び訊く気はしない。
「いや実は、ちょっと大学の講義が重なってて……」
「そんな、勿体ないって。講義はいつでもやってるけど、こっちは今を逃したら次があるかどうかわからないんだよ?」
「でも、金も余裕ないし……」
「参加費なら出してあげるって。それに、申し込んでも当たるかどうかわからないんだから、ダメ元で申し込んでみればいいじゃない。きっと人生観変わるよ」
「はぁ……」
 大原さんは用紙を取りに行ってしまう。座っているのは俺だけになってしまった。独りパイプ椅子に取り残されると、まるで俺が特別なポリシーを持ってわざわざ座っているように見える。それは避けたい。カムフラージュのために、せめて用紙だけは貰っておこう。急いで大原さんの後ろに並び、用紙を受け取る。全員が用紙を受け取って席に戻ったところで、『もみの木』中核メンバーの一人が立ち上がって口を開いた。
「えー、皆さん、用紙を書いている所かと思いますが、今日の『もみの木の会』の集まりはこれで終了といたします。改めまして、ゲストの田口先生、本日はどうもありがとうございました。合宿所見学ツアーの申し込み用紙を書いた方は、今日中に田口先生に提出してお帰りください。以上です」
 困った。カムフラージュのために用紙を受け取ってはみたものの、これは書いて出さずには帰れなくなってしまったぞ。チラリと大原さんの方を盗み見ると、彼女は用紙に記入する手を止め、「どうしたの?」とでも云うように微笑む。これは逃げ場がないなあ。
 いや、そもそも、何をそんなに逃げ腰になっているんだ。確かに「トリニティ」の得体は知れないが、信頼できる『もみの木』の仲間と一緒に行くわけだし、田口先生だって信頼に足る大人物のようだ(本当なら信頼に足る・足らないと考えるのも失礼だが、知らない組織の施設に寝泊まりするのだからその程度の疑念は勘弁してもらおう)。それならば、たった五日間、まさか取って食われるわけでもあるまいし、ここはもう当たって砕けろで、迷わず飛び込んでみたらいいんじゃないだろうか。
 そう思ったら、不安や心配は吹き飛んだ。俺は他の人に後れないように大急ぎで用紙に必要事項を書き終え、田口先生に提出してしまった。記入事項の中には電話番号や住所も含まれていたが、下宿に独り暮らしの俺には何の心配もなかった。緊急連絡先などを書く欄もなかったので気楽だった。

第十話へ
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/65-91182d26

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

最新記事

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR