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親父の家政婦だった女 第十五話

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第十四話へ
 渡されたビール酵母の錠剤は、独特のにおいがした。なぜか親父の書斎を思わせる、古い世代の男のにおいだ。これを咀嚼したいとは思えず、水を西岡から受け取って一気に胃に流し込んだ。それを、微笑ましく見守る西岡の存在が、なんだか不気味であった。
「では健一様、貞操具を外しますので、そのために再びお手を後ろへ回させていただきます」
「何だって」
 そんな話は聞いていない。だいたい何のために手を後ろへ回す必要があるというのか。
「健一様はご奉仕の最中に粗相をなさるんですもの。仕方がありませんわ」
「粗相って」
「メイドの頭をつかんで乱暴なさったじゃありませんか」
「誇張だ」
「では手錠はつけていただけませんか」
「当たり前だ」
「そうですか、残念です」
 そう云うと西岡はエプロンのポケットに手錠を仕舞った。よかった、諦めてくれたらしい。
「……」
 それきり黙りこんで立ちつくす西岡。両者の間に長い沈黙が流れた。
「……」
「……」
「……え?」
「どうなさいました」
「いや、残念って、何が」
「健一様が手錠をさせてくださらないのでご奉仕ができず、残念です」
「ちょ」
「せっかく精力をつけるお薬まで飲まれたのに、また明日も窮屈な一日を過ごされるのかと思うと、残念でなりません」
「おま」
「では失礼いたします。お休みなさいませ、健一様」
 西岡は慇懃に一礼して、薬瓶と水のグラスを片づけてさっさと部屋を出て行ってしまう。

 言葉が出るならば呼び止めたかった。呼び止めて、早くこのペニスを覆う窮屈な拘束具を外してほしいと云いたかった。だが、どうやって云えばよかったろうか。「手錠でも何でもするから」とでも? そんな言葉を家政婦に向かって出せる主がどこにいるだろうか。俺は、言葉を失ったまま、西岡の無慈悲な後ろ姿を見送った。

 暫くして、一定時間でパソコンの電源モードがスタンバイに切り替わる音で我に帰るまで、俺はずっとパソコンの前の椅子に座って、ズボンとパンツを下におろされた状態、哀れな陰茎を拘束する外殻を露出した状態のまま呆けていたのである。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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