「今日一日の見学者の皆さんの様子、――特に中村さん、あなたの様子を、松枝さんから聞かせていただきました。『お祈りの時間には、誰よりも熱心に祈っていた。中村さんの熱心さに影響されて、他の見学者たちも熱心にお祈りをするようになった』『農場の見学・体験では、率先して動き、働き、他の見学者の先駆けとなって、周囲に良い刺激を与えていた』とのことです。中村さん、あなたにはそのような素質がありますね?」
松枝さんにはそう見えていたのか。俺は別段そんなつもりはなかったが。
「いやあ、僕はいつもどおりにしていただけですが」
「いつもどおりにしていてそうなるということは、あなたに素質があるということなのでしょう。中村大樹さん、私はあなたに提案します。この合宿所で牧師として働いてみませんか。……あなたならきっと、この合宿所をもっとよくしてくれると信じるのです」
何を云っているんだ、俺に牧師になれと?
「いや、えっと、僕は見学者として、五日間滞在するだけのつもりで来てますので……」
「ええ、わかっています。もちろん、今すぐ牧師になってくださいと云うつもりはありません。中村さん、あなたには、明日から、牧師養成の視点からの見学に参加していただきたいのです。本日中村さんが参加されたのは外部の一般の方に向けての見学ツアーですね。明日からの四日間、他の参加者の見学コースから逸れて、牧師とはどういうものか、牧師がここでどのような役割を担っているか、といったことをご覧いただきたいと思うのです」
ちょちょちょっと待ってくれ。それはやっぱり俺を牧師にしたいということか?
「すみません、ちょっと待ってください。お話が急すぎてついていけません。あなたは僕を牧師にさせたいんですか?」
武田司祭は少し首を捻ってから答えた。
「端的に云えば、私はあなたに牧師になってほしいと思っています。ですが、それはあなたが決めることです。あなたに牧師の素質があることは私が保証しましょう。あとは、あなたに牧師の何たるかを知っていただくことと、そして、知っていただいた上で牧師になるかならないかの判断をしていただくことだと思うのです」
「じゃあ、えっと、確認させてください。僕が仮に、明日から牧師養成の見学コースに参加したとして、四日後に『牧師にならない』と云うことは可能ですか? それと、僕は家に帰れるんでしょうか?」
武田司祭は当たり前だというように深く頷く。
「もちろんですとも。牧師になるかならないかを判断していただくための見学です」
「牧師って、何なんですか?」
「それは明日からの見学で明らかになるでしょう」
なるほど。つまり、牧師になるかどうかは別として、知りたければ見学に参加しろと。牧師のことなど知りたくもないしなる気もないというのならば断れと。そういうことか。
「じゃあ、見学します」
云ってしまった。云ってから、『これで良かったのか』という疑問が頭をよぎるが、いや、よかったのだ。それに、一度云ってしまったことはもう取り消せない。
「おお、見学してくれますか! それは嬉しいです」
「牧師になるかどうかは分かりませんよ?」
「もちろんそれで結構です。理解を深めていただけることが嬉しいのです。では、山下さん、入ってきてください」
部屋のドアが開き、シスター服の白いのみたいな衣装をまとった清潔な若い女が入ってきた。俺と同世代か、少し上くらいだろうか。えらい美人だ。
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