何だか登場人物が多すぎるなあ。今度は山下あきほさんか。いい加減憶えきれなくなってきた。とはいえ、大きな組織だ。今まで俺たち見学者を案内してくれていた松枝さんは、引き続き一般用の見学ツアーを案内するし、俺は関わらないのだろう。その前に俺に関わってくれていた大原さんとか池田さんの顔はもうよく思い出せない。とりあえず、俺は明日からこの山下さんについていけばいいのかな。頭がそろそろ思考停止してきた。それに何だか、山下さんは聖女という言葉がぴったり似合うような、すごい美人だ。
武田司祭が云う。
「山下さん。明日から、この中村大樹さんに、ここでの牧師の生活について、色々と見せてあげてください。頼みましたよ」
「はい先生。では中村さん、宿舎にご案内します。ついて来てください」
山下さんに案内されて夜道を行く。道は完全に真っ暗闇になってしまった。山下さんは俺にぴったり寄り添い、懐中電灯で足元を照らして俺を気遣ってゆっくり歩いてくれた。
歩きながら、山下さんは俺の今までの日常生活、家族のこと、大学のこと、『もみの木の会』でのこと、などについて色々と話を聞いてくれた。山下さんはそれらのことについて根掘り葉掘り訊くでもなく、聞き流すでもなく、心地よい相槌と共感を示してくれた。それで、俺もついつい色々なことを話したくなってしまうのだった。
「着きました、ここです」
山下さんは歩を止めたが、それは俺が最初に案内された見学者のための宿舎ではなかった。山下さんは、牧師のための宿舎だと説明してくれた。
「だって、中村さん、他の見学者のところに戻って、『君たちと別の見学コースになったからサヨナラ』って云うの、気まずくないですか? ですから、今夜から私と同じ牧師用の宿舎に泊まってください。中村さんの荷物はあとで退魔士に届けさせますから、ご安心ください」
「はぁ」
確かに、面と向かってそれを云うのは少し度胸が要る。それに、もうここまできたらじたばたしても仕方がない。とりあえずあと四日、見学が終われば東京に帰れるのだから、今は云われた通りにしておこう。
「では、こちらの部屋へどうぞ」
通された部屋は、質素ながらもきれいに手入れが行き届いている西洋風の造りで、壁際にデスク、反対側にベッドが一つ置いてある。
「今日はお疲れでしょうし、明日の朝も早いですから、お早めにお休みください」
山下さんはそう云って部屋を出て行ってしまったが、何か色々ありすぎてすぐには眠れそうにない。それに俺の荷物が手元にないから何かしようにもできない。ベッドに腰掛け大きくため息をついた。そうこうしているうちに山下さんが戻ってきた。手には布団を抱えている。
第十五話へ
コメントの投稿