「えっ」
「中村さんにはまだ云っていませんでしたね、ここはもともと私にあてがわれた部屋なんです。ただ、ベッドが一つしかないので、ベッドは中村さんに使っていただいて、私は床に布団を敷いて寝ようと思います」
「えっ」
「どうしました? 何か問題でも……?」
「いや……」
どうしよう。どうやら山下さんは、男女二人が同じ部屋に寝ることを問題と思っていないらしい。もしかすると、男女の間違いが起こる可能性なんて万に一つも考慮に入れていないのかもしれない。そうすると、ここで俺一人が問題視して大騒ぎするのは、俺が疚しいことを考えているのを露呈するようで厭だ。
「中村さん、もうシャワーは浴びられました?」
「いえ……」
今度は何を云うんだ。これ以上ピンポイントで俺のエロ妄想を刺激する単語を出してこないでくれ。
「そこにシャワー室がありますので、ご自由にお使いください」
「いや、僕、荷物が無いので……、着替えがないんです」
「あ、そうでしたね。ほどなく退魔士が持ってくると思いますが。そうしたら、すみませんが私が先に浴びてもいいですか?」
「あっ、どうぞ、どうぞ」
シャワー室から水音が聞こえる。これは一体何の因果だろうな。雰囲気に流されるうちに新興宗教の合宿所見学に連れてこられたと思ったら、いつの間にか美人女性牧師の部屋に連れ込まれて、彼女がシャワーを浴びているのを、彼女のベッドに腰掛けながら待っている。
そのうちに退魔士らしき人が四人、見学者の男部屋から俺の荷物を持ってきてくれた。四人がかりで運ぶほどの荷物でもないが……?
「牧師候補の中村大樹さまにお荷物をお持ちしました!」
一人が肩肘張って云う。他の三人も何だか軍隊ふうのオーラだ。
「はあ、ありがとうございます」
気圧されて荷物を受け取る。四人は敬礼して帰って行こうとする。
その時、四人のうちの一人の男が俺の方へずいと身を寄せてきた。身を引く暇もなく、彼は俺の耳元へ口を近付けて囁いた。
「気を付けろ、今のうちに逃げろ」
「えっ」
すると、すぐに残りの三人の退魔士たちが男を引っ張って去っていった。まるで、密告を封殺するような勢いだった。
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