2ntブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/72-d7cd35a5

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

聖トリニティ退魔士会 第十六話

第一話へ
第十五話へ

 退魔士たちが帰ってから、山下さんがシャワーから上がった。白いシスター服のまま、ただしヴェールは被っていない。しっとりと湿った黒髪から甘い石鹸が香る。顔は元々化粧をしていなかったようだ。湯上りでも変わらぬ美しさ、むしろ湯気が魅力を添えていた。俺は先ほどの不吉な警告を頭の片隅に押しやって、山下さんの姿態に見惚れた。
「お先にお湯を頂戴しました。あ、荷物、来たんですね。シャワー、使われますか?」
 山下さんのすぐあとにシャワー室に入る。熱気の名残と石鹸の匂いに包まれる。女の残り香でこんなにドキドキするとは思ってもみなかった。俺は中学生か? ついつい勃起してしまったが、神聖なる女性牧師に欲情するなんてとんでもない! と自らを叱り、音が漏れるから精を抜くわけにもいかず、どうにか鎮めてシャワー室を出た。
 山下さんは既に布団に包まって清らかな寝息を立てていた。俺は彼女の安らかな眠りを妨げないよう忍び足で、彼女が昨夜まで寝ていたベッドに潜り込んだ。今日は朝から色々なことが新鮮すぎて疲れていた。自分がぐっすり眠れたのか眠れていないのかすらよくわからなかったが、隣で山下さんが寝返りをうった回数だけはなぜか正確に覚えている。

 翌朝は、窓の外が明るくなり始めたころから山下さんが起き出したような物音がしていて、少し後に俺が起こされた。五時半だった。
「お早うございます、中村さん。今日から、私と一緒に、牧師としての生活を体験していただきます。今日は土曜日ですので、午前中は退魔士と悪魔憑きの勤めを視察、激励します。午後は、当合宿所と教団をよりよく理解していただくためのビデオをご覧いただいた後、他の牧師の方と一緒にお茶の時間があります」
 うむむ、今日もなかなか濃密な一日になりそうですね。山下さん、俺は目が回りそうです。
「それから、中村さん、今日からはこちらの服を着用してください」
 そう云って手渡されたのは長い学ランのような白い服。
「学ランではありませんよ。キャソックと云います。ここでは牧師は白いキャソックを着用することになっています」
 俺は白キャソックを着て、首から『牧師候補 中村』と書かれた名札を下げた。これで誰から見ても牧師候補になってしまった。

 朝食は他の牧師と一緒に食堂で食べた。基本的に牧師たちの食事は退魔士たちが作ってくれているらしい。ということは、牧師というのはここではかなり優遇される地位なのか?
 食事の前と後に長いお祈りがあるのは昨日と同じだ。食事の度にこの文句を唱えていると、お祈りのリズムが頭に沁み込んでくる。食事の最中は会話がないから、自然と、お祈りの言葉やリズムが頭の中でぐるぐる回る。

「これから、退魔士の皆さんのお勤めを励ますため、第六作業所まで歩きます。第六作業所は山の中腹にあるので、少し長く歩くことになりますが、大丈夫ですか?」
「た、たぶん、大丈夫だと思います」
「そうですよね。中村さん、身体、がっしりしてらっしゃいますもんね」
 朝食の後、山下さんの案内で、山を登る。昨日の寝不足のせいで息が上がる。山下さんは汗一つかかず、ニコニコして歩きながら俺に話しかけてくる。『がっしりしてらっしゃいますもんね』と褒めてもらった手前、俺は苦しい様子を必死で表に出さないようにして、話を聞きながら山道を登った。
「合宿に参加している方や新しく入信された方の中には、悪魔の誘惑に非常に弱い方がいらっしゃいます。そのような方は、『悪魔憑き』と判定され、退魔士の指導の下、第六作業所から第十五作業所までの作業所で、それぞれ自らの『勤め』に励みます。『勤め』は悪魔の誘惑に心を奪われた『悪魔憑き』にとっては辛く厳しいものですが、神様の愛に気が付いた者にとっては歓びに満ちたものとなります」

第十七話へ
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://wrightdown.blog.2nt.com/tb.php/72-d7cd35a5

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

最新記事

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR