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親父の家政婦だった女 第二十六話

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 その日は一日中、胸がむずむずする感覚と、今晩の快楽への期待と、先日の乳首への悪戯の記憶とに揺さぶられながら過ごした。「乳首の感度を高める訓練」などと称してやらされた乳首に触れるゲームを思い出して、多人数の講義中、こっそりシャツの上から自分の乳首に触れてみたりもした。乳首には鍼治療シールが貼ってあって、その上にシャツ、さらにその上から触っていることになる。それにしても、自分の乳首が驚くほど敏感になっていた。鍼が一ミリほど皮膚に刺さっているからかもしれないが、シールの上から乳首に触れるたび、ぴりぴりとした鋭い快楽が脳と陰茎に向けて発信されるのが痛いほど感じられた。それで愚息が勃ってしまい、また貞操具の中で窮屈そうに屈みこんで大きくなって痛んだので、俺は自分の乳首をいじるのをやめた。どうせ今晩まで待てば「今まで経験したことのない快楽」が約束されているのだ。今じたばたしても仕方がない、自分で乳首をいじってもしょうがない。今晩西岡に貞操具を外してもらい、思う存分勃起できる状態で、西岡に乳首をいじってもらうのだ。
 そこまで考えるともなしに考えてみて、自分の考え方が自然と西岡に依存する方向へ傾いているのに気づいて恐ろしくなった。一般教養の講義など全く耳に入っていなかった。このままではいけないと思ったが、しかしこのままを回避する方法が思い浮かばなかった。精子は日々溜まる。それを放出しようとすれば西岡に貞操具を外してくれと頼み込むほかない。頼み込めば一度は放出させてもらえるが、すぐにまた貞操具を装着される。これを繰り返していれば、自然と思考の傾向が西岡依存に向くのもやむを得ないことだった。

 帰宅する途中も、頭の中の大部分を約束された「快楽」への期待が占めていた。帰宅してからも、大学のレポートを書くふりをしてマインスイーパをしている間も、ずっとそのことが頭から離れなかった。俺が夕食を摂っている間、西岡は台所で何かの作業をしていたが、その間も、彼女の動向が気になって仕方がなかった。当然俺は、何も気にしていないように振る舞って、いつもの通り夕食を終え、錠剤を飲んだ。

 夕食を終えても、西岡は何も手を出してこなかった。かといって手を出してくれと頼むわけにもいかなかったので、俺は西岡に聞こえるようにごちそうさまを云い、席を離れた。

 寝る前にシャワーを浴びようと思った所で、細い針が乳首に刺さったままのシールを外す必要があることに気がついた。
「おい西岡、おーい」
「いかがなさいましたか」
「シャワーを浴びようと思うんだが」
「はい」
「この胸のシールは剥がしたほうがいいんだろうね?」
「いえ、その必要はありません。上から強くこすらなければ、シールの隙間から水が侵入したり針の周辺を傷つけるようなことはありませんわ」
「ということは、剥がさない方がいいのか」
「そのシールを剥がすのは、貞操具を外す時にいたしましょう」
「そっ、そうか……そうだな」
 そう云いながら俺の目は西岡の胸元に細い金鎖で下がる南京錠の鍵、また、自らの股間をチラリチラリと見ていた。そして、その「貞操具を外す時」がいつになるのかを西岡が明言しないのをもどかしく思った。
「では、失礼します」
 西岡は一礼してシャワー室前の脱衣場を出ていく。出ていく時の横顔が、くすっと、まるで俺の不安と動揺をあざ笑っているかのように見えたのは気のせいだったか。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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