次の朝、股間の妙な違和感で目が覚めた。何か硬い重いものが動きを妨げているような。
「おはようございます、健一様。ゆうべはお楽しみでしたね」
「お前がそれを云うのか」
西岡は既に起きて朝食の支度をしていた。そうだ、昨日は西岡が俺の布団に入ってきて性的な悪戯をしたのだった。そう思って愚息の違和感を確認しようとして、愚息が何か硬いものに覆われていることに気が付いた。
「何だこれ」
「気が付かれましたか。それは『貞操具』と申しまして、性交や自慰を防止するための器具です」
「何だって」
聞き間違いでなければ、今さらりと恐ろしいことを云われた気がする。毛布をめくって股間を検めると、そこには透明のプラスチック製のケースが付いていた。ちょうどペニスを覆うようにして、平常時の愚息にちょうどいいぐらいのサイズで付いている。これでは性交や自慰どころか、ただ勃起することさえ不可能だ。ちょっと待て、それは困るんじゃないのか。
どうやって固定されているのか? ちょっと引っ張ってみたらすぐにわかった。リングが陰嚢の裏を回っていて、まるで睾丸を挟むかのように固定されている。接合部には、小型の真鍮製南京錠が付いていた。最初は何の冗談の続きかと思ったが、驚くほど堅牢な造りであって、これを正当な手続きを経ずに外そうと思ったら、ペニスが潰れるのを覚悟で叩き壊すか、睾丸が潰れるのを覚悟で引っ張り抜くしかないことが分かった。
西岡は食器をテーブルに並べ終え、「朝食の準備が整いました」と無機質に云ってのけた。俺の股間の異変――その首謀者はおそらくこの女なのだが――についてはどうでもいいらしい。
「いや、よくない!」
「クロテッドクリームはお気に召されませんか」
「ほう、今日の朝食は英国風だね……じゃなくて!」
冗談にしては過ぎる。いたずらにしては性質が悪い。
「これは困る。今すぐ外してもらいたい」
「困りませんわ。それは付けていても日常生活に支障をきたしませんから。頻繁に自慰をされる方は別ですが」
「う……っ、いやしかし、トイレの時とか」
「健一様。そのお話は朝食の後になさいませんか」
云われてみれば尤もだった。俺はベーコンエッグと麺麭と紅茶の、英国風の朝食を楽しむことにした。
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