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全国中学校対抗ペイント弾合戦 第四話

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 誰も手を挙げない。まあ、当然だろう。学級司令は戦いの結果がすべて跳ね返ってくる重責である。推薦されて仕方なく就任ならともかく、自分からやりたいと立候補しておいて作戦失敗した時の叩かれぶりは想像に難くない。しばらく待っても誰も手を挙げず、エミとユウスケが困って私にちらちらと視線を送ってきたところで私は助け船を出した。
「推薦でもいいですよ。この人が適任だと思うというのを、理由をつけて発表できる人は、推薦しなさい」
「立候補か推薦はありますか」
とエミが司会の形を保つ。
 コウイチが手を挙げた。
「ダイトがいいと思います。理由は、ダイトは頭がいいのと、友達が多くてよく喋るのでクラスのことをよくわかっているからです」
賛成です、と周りの男子数人が声を上げる。ダイトは「参ったなあ」とでもいうふうに苦笑して頭を掻きながらコウイチを見ている。満更でもなさそうだ。しかし女子の一群は不快感を露わにした。マナカ、アカリ、モミジらのグループとその周辺の女子らは、机越しに振り向いたり、横の人と顔を見合わせてクスクス笑ったりして、ダイトを司令にしたくなさげな空気を形成した。公的な場でなければ有効な方策だ。実際、当のダイトもコウイチの方を向くのをやめて前を向き、顔から嬉しそうな色が消えている。だが、そのグループの中の誰も対立候補を擁立しようとはしない。
 トシヒコがつまらなそうな顔で手を挙げた。
「司令に立候補します」
うえええい、と周りの男子が無意味な喝采を送る。トシヒコを応援したいのか、茶化したいのかよくわからない、自分たちが騒げればそれで楽しいような喝采だ。
「他にいなければ、ダイトくんとトシヒコくんの二人の候補で投票をします……で、いいですか」
エミが私の意向を確認する。
「その前に、抱負の演説して」
「あっ、はい。じゃあ、ダイトくん、トシヒコくん、前に出てください」
二人が前に出る。ダイトは小声で「どっちからやる?」とトシヒコに訊こうとしたが、トシヒコは意に介せず教卓に手を突いて話し始めた。
「みんな。全国大会へ行きたいか」
教室はしんとしている。
「それとも、なるべく脱落者を出さないようにして、適当なところで敗退すればそれでいいと思っているか」
教室はしんとしている。
「俺は、正直、全国なんかどうでもいい。とにかく脱落者を出さない戦い方をしようと思う。訓練所に行きたくない奴は、俺に投票してくれ。以上」
教室はしんとしたままだ。ただ女子数名が顔を見合わせているぐらいである。

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右斜め下

Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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