やりにくそうにダイトが頭を掻きながら苦笑して教卓の前に立った。
「えー……、えーっとお、推薦されたダイトです」
教室が何となく笑いに包まれる。
「僕は、先手必勝をモットーにやろうと思っています、というのは、いっこ上の三年生が近くの学校を次々に負かしたときの戦術を先輩から聞いたからなんですけど。でもまあ、みなさんの意見をいろいろ聞きながら、作戦を立案していきたいと思っています」
教室がほっこりと和やかなムードになる。対照的な二人だ。ただ一部の女子はやはり嘲笑のようなクスクス笑いを止めない。
「じゃあ、どちらかに一回だけ手を挙げてください。トシヒコくんが司令がいいと思う人」
対照的な二人だけに、手の挙げ方で一人一人のペイント弾合戦への姿勢が窺える。ノブキはやはりトシヒコに票を入れている。女子は圧倒的にトシヒコを支持した。その中には、アカリやサクラといった、体育でトップクラスの生徒もいる。もっとも、女子はアカリらのグループに遠慮して、云わば空気を読んでトシヒコに票を入れているらしい節がある。
「ダイトくんが司令がいいと思う人」
コウイチ、ヒロアキ、ユウスケらを始め、自己主張の強い男子が主に手を挙げている。
「えー、トシヒコくん、十六票、ダイトくん、十二票。よって、トシヒコくんが学級司令に選ばれました」
エミが結果を告げる。ユウスケは司会の仕事しろ。合計すると二十八票で、手を挙げていない人が数名いることになる。そういう人は作戦を人任せにして、前線にでも送り出されればいい。
私はエミとユウスケに視線を送った。
「代表委員の二人は席に戻っていいですよ。トシヒコ、前に出てきて、学級司令の補佐役を決める司会をして。場合によってはあなたが必要だと思うものを決めてもいいけど、必ずみんなの同意を得てね」
トシヒコが前に出る。首を三十度ほど傾けて、いつものようにつまらなそうにしている。
「必要なのは、二つ。情報収集役と、武器とか弾薬の残量を管理する人とがいればいいです。情報収集役は、ダイト、お前にやってほしいんだが、いいか」
教室が呆気にとられている。実を云うと私も驚いた。トシヒコがこんなに瞬時に明晰に結論を出す子だとは思っていなかった。
「お、おう。わかった」
ダイトが頷く。トシヒコは続ける。
「敵がどういうふうに動いているかがわからなければ、作戦なんか立てられない。従って、みんなは、どんぱちやるよりもまず、近隣の敵の学校について見たこと、聞いたこと、そういった情報をすべてダイトに伝えてもらいたい。いいか」
トシヒコがいつもより目を見開いて、教室を見まわしている。トシヒコと目があってしまった人は、目が逸らせなくなって小さく頷く。何だ、このカリスマは。
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