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全国中学校対抗ペイント弾合戦 第七話

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 こんな調子で我らが二年五組、次期三年五組の作戦司令部は結成された。卒業式や新年度の準備に忙殺される中、各学級の司令部が集まる司令会議では毎日放課後、どのような作戦で戦っていくかがペイント弾主任のモトキ先生の指導のもとで話し合われ、そうして二か月が過ぎて四月になった。四月になって武器が配られても、司令部は何とも動きださなかった。強いて言えば近隣校についての情報を集めるようにと学級で指示したことと、襲われた時には応戦せよとして各自に十発ずつハンドガン用ペイント弾を配布したぐらいのもので、特別他校に戦いを仕掛けるような動きを見せなかった。
 しかし、四月の第二週には隣の三鷹二中が敗退、第三週には四中と六中が続いて敗退したという知らせが入った。二中、四中、六中は、我らが一中を囲むように建っている。どういうことかと思いモトキ先生に聞いてみると、意外とあっさり教えてくれた。
「生徒に広まると外に漏れるんで、他言無用でお願いしますよ。司令部だけで暗躍してます。他校の一年生の制服をこっそり奪って、それを上に着て堂々と乗り込んで敗退スイッチを押すんです。新入生の顔を覚えきれていない新学期にのみ有効な方法ですが。二組のリョウスケと五組のダイト、あいつら小柄ですばしこいでしょ、あの二人が実動隊で動いています」
確かにダイトは時々「司令部の用事で」と云って学校を休むことがあった。そのための休みでしたかと云ったらモトキ先生は頷いた。
 そんな中、三鷹七中が一中を警戒して、一中への襲撃を計画しているという噂がまことしやかに流れ出した。噂の出所はよくわからず、信頼できる根拠となる目撃情報はどこにもなく、ただ周辺の学校が次々に敗退していることへのそこはかとない不安から流れ出た噂のようでもあった。司令部にも、その噂に関するタレ込みが殺到した。噂で伝え聞いた内容をまるで自分の目で確認したかのようにタレ込む者もいて、「情報の正確さの見極めがこんなに大変だとは思いませんでしたよ」とダイトが愚痴をこぼしていた。
 四月も終わりに近づいたある月曜日、二時間目の途中にダイトと二組のリョウスケが、二人揃って制服の背中に蛍光ピンクの染みを光らせて登校してきた。それを見た生徒の間に「ああ、撃たれたのだ」「何らかの作戦に失敗したのだ」という不安と好奇の空気が流れた。モトキ先生は二人をとりあえず相談室に留め置き、昼休みに臨時に学年の教員を集めた。彼は、二組と五組は五時間目を学活にして、ダイトとリョウスケに制服を譲渡する生徒を募る時間に当ててほしいと指示した。「今後こういった制服譲渡のための学活が増えると思いますが、勝つためだけではなく教育活動としても非常に重要な時間ですので、今後とも柔軟な対応をお願いします」と添えて。
 昼休みの臨時会議の後、私は相談室のダイトを訪れた。ダイトは普段の表情豊かな様子から一変、快活さも憂いも感じさせない無表情で、リョウスケから離れた所に座ってじっとしていた。二人分の給食のうち、片方は完食してあり、片方は手が付けられていなかった。
「ダイト、五時間目はあなたに制服を譲ってくれる生徒を募集する学活になります。ああ、リョウスケ、二組も同じように学活になるという話だけれど、詳しいことはキョウコ先生から聞いてね。今は五組の話をします」
ダイトとリョウスケは神妙にうなずいた。
「学活で最初に、クラスの皆の前で、どうしてこういうことになったのかを簡単に説明してほしいの。といっても、司令部の都合上、みんなには話せないこともあると思います。だから、話せる部分だけでいいから、みんなに事情を説明して。例えば『詳しくは話せないけど司令部の任務中に…』とかでいいから」
「はい」
「そのあと、誰が制服を譲るか、という話し合いになるけれど、あなたはその話し合いには参加しない方がいいね。教卓の横あたりで黙って見ててもらうことになります」
ダイトはまた無表情に「はい」と答えた。

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Author:右斜め下
人が苦しむ物語が好きなんだけど、苦しんでいれば何でもいいってわけでもない。
自分でも「こういう話が好きです」と一言で言えないから、好きな話を自分で書いてしまおうと思った。
SとかMとかじゃないんだ。でもどっちかっていうとM。

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